キミの隣で、モラトリアム

虚実ないまぜインターネットの墓標

コズミック死生観

狭いせまい半径二キロの円周内、これが私の宇宙です、いつもと同じオービット、リロードされない通学路、窓から眺める鈍色は相も変わらず素っ気ない。
見知らぬ消失、昨日の傷跡、タバコ屋さんちのわんちゃん死んじゃったんだってさ、抉られたコンクリート、明日には水たまり、のち、尊き生命の誕生、おめでとう。
このまま明日が来なくて今日が永遠に繰り返されるのだとしたら、私きっと退屈してしまう、日々を重ねて軌道はほんの僅かにずれてゆく、数センチの誤差を重ねて昨日の私、のち、明日の私、太陽の姿を見失った今日。
惑星の運行周期は不定期で、3番線にまいります冥王星は回送でございますご乗車はできません繰り返しますご乗車できません、忘れられた命、20年前の時刻表、色あせた、世界線から世界線への移行、人々は存外素直に適応してゆく、もうここにはいない君、さよなら。

 

第三次世界大戦が起こるとしたら、どうなるんだろう、って思ってる、私たちはなにで戦うんだろう、世界史の教科書を眺めた午前2時、太平洋戦争の日本軍の進行図、言葉でしか知らない南の島、地図と重なり鮮やかな景色を見せた。感覚を「それ」に近づける作業は、深い海にゆっくり潜ってゆくのに似てる-コクトーの恐るべき子どもたちでは、「遊戯」と呼ばれていたけど私はIFと呼んでいる-静かに、慎重に、「それ」と同化する、とぷん、と音を立てて沈むとゆっくりと周りのさざめきがフェードアウトする、ひやりとした記憶と想像に触れる、空想が、想像が、幻想が、現実を緩やかに侵食して私の目に風景を映す。

ラバウル島、ミッドウェー島、硫黄島、サイパンガダルカナル、グアム、ペリリュー、すべて眼前の出来事、あいつは死んでもう帰ってこない、じっとりとした亜熱帯特有の気候、植物が視界を遮る、遠くは霞んでもう見えない、敵がいれば死んでしまうし、食料がなければ死んでしまうし、何にもなくてもお国のために死んでしまうんだろう。

 

日本はすっかり豊かな国の仲間入りを果たして、人々は肥えきった丸顔をしてにこにこにやにやと愛想笑いを貼り付けている、韓国やロシアのような徴兵制は存在しない、幸福な社会、自衛隊も実戦経験は積んでいない、守るためだけの限られた戦う人、憲法九条は錆び付いたエクスカリバー、SEALDsはうそ寒いなんて頬杖ついて眺めてた。

第三次世界大戦が始まったら私たちどうなるんだろう、何を武器にして戦うんだろう、あの頃のように赤い紙が届いて家族が一人、また一人と消えていくんだろうか、私は残されて、君死にたまふことなかれ、なんて綴っているんだろうか、裕福な暮らしをする私達も、いつかは毎日のようには食事を得られなくなって、薄い粥を啜るんだろうか、都心の明かりは消え失せて、信号も街灯も電力不足により点灯しない真っ暗な夜が訪れるんだろうか、肉体的な力さえあれば圧倒的に強いとされる時代が再び訪れるんだろうか、私は何を考えて何を思って日々を生き延びているんだろうか。

 

ある人が、核爆弾を落とすに決まっているだろう、と短的に答えた。なんだかそれはあっけない、と思った。戦いたいわけじゃないけど、それは釈然としない。人間はおそらく、最終的には人間同士でしか戦えないだろう、何も抵抗も声を上げることされ許されず、一瞬にして消し飛ばされるなんていうのは、それは戦いではない。

 

鋼鉄の宇宙船、最後の方舟、ノアは自らの意思で乗り込むのをやめた、荒廃してゆき、枯れ果て、死に絶えるこの星で終わりを遂げる。詰め込んだ希望は、永遠にこの宇宙をさまよう、果てしない旅路、どこにもないユートピア、繰り返される生と死は大気圏に掻き消されて、もうここにはない、ここにはなにもない。